漢方薬は現在、保険適用として医療機関で処方される一方、一般用医薬品(OTC)として薬局でも販売されています。このようなOTC類似薬の保険適用見直しは、定期的に議論されています。その中で、漢方薬についても、OTCとして販売されているのであれば、保険適用から外してもよいのではという議論が、以前から報道されています。
歴史的に見ると、江戸時代に西洋医学が輸入され、「蘭方(オランダの医学の意)」と呼ばれたことがきっかけで、日本の伝統的な医学が「漢方」と呼ばれるようになりました。その後、明治維新による西洋化の流れに押され、漢方は日本の医学の第一線から退くことになりました。そして、1960〜70年代に漢方薬が保険適用となるまでの約100年間は、「漢方受難の時代」と呼ばれています1)。
この漢方受難の時代、江戸時代から既にあった漢方薬局を中心に、文化としての漢方が守られてきたという歴史的背景があります。現代では、漢方薬の効果だけでなく、安全性についても検証することが求められ、市販の漢方薬(OTC)でも副作用の報告が増えつつあります2)。特に、防風通聖散と葛根湯の2処方で、副作用が多く報告されています2)。これらの処方は、満量処方として、保険適用と同じ内容の処方がOTCでも入手可能です。防風通聖散については、副作用の肝障害による入院例も複数報告され、肝機能が正常化するまでに4カ月かかった症例も報告されています3)。
また、漢方薬による副作用の懸念は、OTCに関してだけではありません。新型コロナウイルス流行以降、オンライン診療が普及しつつありますが、一部の漢方薬は、肥満の解消目的としてオンライン診療にて入手できるようになっています。「オンライン/ダイエット/漢方」と検索すると、いくつものサイトが見つかり、診察と処方の簡便さをアピールしている内容が目立ちます。漢方薬の副作用リスクについては、ほとんど記載がないか、「漢方薬なので安全です」といった表示もみられ、副作用リスクについての記載は不十分と言わざるをえません。
漢方薬の保険適用継続について話題になっているタイミングこそ、その安全性、そして医療者としての倫理について、改めて見直す必要があるのではと感じています。
【文献】
1)日本漢方医学教育協議会, 編:基本がわかる 漢方医学講義. 羊土社, 2020, p23.
2)伊藤隆:日東医誌. 2016;67(2):184-90.
3)元山宏行, 他:日消誌. 2008;105(8):1234-9.
樫尾明彦(給田ファミリークリニック)[漢方薬][保険適用][OTC]
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