株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

目崎高広

登録日:
2024-12-05
最終更新日:
2024-12-12

「『お医者さま』のリテラシー」

どこで読んだか忘れましたが、医師の給与が高いのは「難しい仕事だから」だと書いてありました。本当に高いかどうかは別問題として、違うんじゃないか……と思いました。難しい仕事の定義にもよりますが、ものづくりの仕事は易しいでしょうか? 大部分の芸術家はその技能に見合わない報酬しか得ていませんが、その仕事は易しいでしょうか?

医師免許を使って働くだけで、わずか数年の医師歴でも日本人の平均給与をはるかに超える収入を得ることができるのは、専門技能のためだけではないはずです。ほぼ無条件で与えられる社会的信用と尊敬があるからだと私は考えます。医療不信を私たちにぶつける人が最近目立ちますが、おそらくはごく一部でしょう。

こんなことを書くのは、医師の見識が地に堕ちたと思わせる書き込みを、最近あちこちで見かけるからです。大人が他人に尋ねることかと訝るような幼稚な相談。調べればすぐにわかる疑問。初めから自己承認が目的の下心丸見えな質問。特定の結論に誘導したい問題提起。情報リテラシーがまるで感じられない居酒屋談義。ここでは最後の点に絞って書きたいと思います。

自分の考えに合わない情報や意見は無視または全否定し、旧来のメディアが報じないSNS情報を確たる証拠もなく“隠された真実”だと思い込む人々。確かに大手メディアにも問題は山積だと思います。しかしSNSも大手メディアも、書かれていることはどちらも誰かが「選択」して公表した情報です。ですから真偽の判断はいずれにしても必要です。ただ、どちらがより多くの時間をかけて吟味した情報なのか、より広い視野で議論をしているのか、より大きな社会的責任を背負っているのか……。これらを冷静に考えたとは到底思えない暴論を、同好の人々が1つのスレッドを占拠して書き込み、盛り上がっています。これは誤った熱狂です。違和感を持って反論しても袋叩きに遭うだけでしょう。この現象が日本だけでないことは明らかです。

しかし、医師の見識がこの程度でしかないと、もし社会に知れたら、これまで先人が培ってきた信用や尊敬は丸つぶれです。あるいは、知られては困るからこそ、医療者限定サイトでの、匿名での酔っ払い談義なのでしょうか。私の知る実名限定サイトでは、まだこのようなブザマな光景はありませんから。

私たちは技能の切り売りだけをしているのではありません。「お医者さま」という言葉は死語になりつつありますが、この言葉の背景には社会人としての重い責任があります。たとえ戯れ言だとしてでも(そうあってほしい)、品格を疑われるような書き込みはせいぜい狭い仲間内だけにして、外部の目に触れないようお願いしたいと切に思います。医者ってこんなに○○だったのか、と呆れている同業者がいることを思い出してほしい。

これもまた医療者のごく一部であることを祈ります。社会常識や一般教養の不足が一因なのか、と考えています。

目崎高広(榊原白鳳病院脳神経内科)[社会的信用][情報リテラシー]

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