株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

鍵山暢之

登録日:
2025-01-16
最終更新日:
2025-01-23

「日本版生成AIの医療応用と課題─診療支援から事務効率化まで」

政府が、医師の診療を支援する国産の生成AI(人工知能)の開発に着手した。日本語の医学論文や膨大な医療画像データを学習させ、問診結果から病名候補を提示するなど、医療の質を高めることをめざしているという。海外製AIを活用する動きは既に進んでいるが、本邦ならではの事情やデータを反映した国産技術をつくることにより、より精度が高く、かつ安全性の確保された診療支援が期待される。

背景にあるのは大規模言語モデル(large language model:LLM)の医療応用の可能性だ。今回の研究チームには自治医科大学をはじめとする国内の大学・研究機関、民間企業が約40も参加し、総額約220億円が投じられる。LLMに数百億文字の日本語の医学論文や、匿名化したCT画像約5億2000万枚などを取り込み、医師の診療をサポートする機能を実装する。たとえば問診の結果から該当する疾患の候補を示すことで、未経験の症例や稀な疾患を見落とすリスクを軽減させる効果が期待される。

さらに画像診断領域では、X線やCT、MRIなどで重要な所見を見つけ出し、見落としを防ぐ狙いにより医療事故のリスク低減が見込まれる。また医師の事務負担軽減という意味でも、大きな役割を果たす可能性がある。生成AIが電子カルテへの記入補助や紹介状、発生届の文案作成などを肩代わりできれば、医療現場での書類作成に費やす時間を削減し、患者と向き合う時間を増やすことにつながるだろう。

一方で、生成AI特有の課題にも注意が必要だ。誤った情報を回答してしまう「ハルシネーション(幻覚)」や、学習データのバイアスにより偏った提案がなされるリスクがある。海外の大手IT企業が開発したAIをそのまま導入した場合、日本の医療制度や診療事情を十分に反映できず、個人情報の国外流出にもつながりかねない。国産モデルを用意することで、こうしたリスクを最小化する道を探る意味は大きいが、医療従事者や患者の個人情報を厳重に管理するためのセキュリティ対策は欠かせない。

国産生成AIが今後実用化されれば、電子カルテメーカー等のシステムに統合され、診療現場で広く使われるようになるだろう。しかし、開発チームがどのようなアルゴリズムとセキュリティ対策を施し、どの程度の精度と安全性を達成できるかは、臨床導入の鍵を握る要素である。私たち医療従事者としては、AIが提示する診断候補を盲信するのではなく、医師が持つ知識や経験とAIの解析結果を適切に組み合わせることが求められる。実装が進むにつれ、医療現場からのフィードバックを素早く反映し、AIを安全に育てていく土壌が必要となる。

どのような有用な道具であっても、使い方に十分に精通し、正しい場面で使用することが安全にその効果を発揮するために必要不可欠なポイントである。今後はガイドラインの整備や関連する法制度の見直しも行いながら、国産生成AIを有効かつ安全に活用する道筋を示すことが重要である。最先端技術と臨床現場の知見を合わせることで、病気の早期発見・正確な診断、医師の負担軽減、ひいては患者により寄り添う医療の実現に大きく寄与することを期待したい。

鍵山暢之(順天堂大学循環器内科/データサイエンスコース特任准教授)[診療支援][生成AI]

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