摂食嚥下障害の診療には、複数の診療科や医療専門職の協力が必要な場合も少なくない。また、受診すべき診療科に悩む患者も多く、日本でも1箇所で摂食嚥下障害の診療が完結する組織の必要性を感じていた。
2008年に杏林大学では、複数診療科の協働による集学的診療センターの企画が立ち上がり、これに応募する形で米国のJohns Hopkins大学嚥下センターに倣った「杏林大学摂食嚥下センター」を2009年に組織した。嚥下診療に関わる診療科の垣根を取り払うため、摂食嚥下障害に関連する各科の診療科長(教授)に病院長から協力を要請し、各科から選任されたスタッフからなる混成チームが編成された。外来・入院症例にかかわらず、摂食嚥下障害に関する包括的な診療を実践する組織となった。2020年まで筆者が統括責任者を務めていた間の診療体制を本稿で紹介する。
摂食嚥下障害を訴える患者は耳鼻咽喉科を訪れ、問診と診察、および喉頭内視鏡検査を受診し、嚥下内視鏡検査(VE)と嚥下造影検査(VF)の日程調整後、摂食嚥下センターの管轄とした。耳鼻咽喉科医が言語聴覚士や摂食嚥下障害看護認定看護師とともに、VE・VFの所見を説明し、嚥下指導や訓練を行った上で、多職種での協議が必要と判断した場合、脳神経内科医や消化器外科医なども参加する摂食嚥下カンファレンスに諮った。
カンファレンスにおいてVE・VF画像を供覧し、各専門家による多面的な議論、摂食嚥下障害の病態診断と予後予測も行った。入院中の症例については、短期・長期的な目標設定も行い、胃瘻造設や嚥下手術の適応に関しても検討を行った。当時はほかに類をみない組織であり、多摩地域のみならず他県からも患者が紹介され、関心を持った多くの医療従事者の見学も受け入れた。
その結果、摂食嚥下センターの有用性を理解頂き、その後、国内の大学病院や大規模病院に摂食嚥下センターあるいは音声嚥下センターが組織されるようになった。他院では必ずしも耳鼻咽喉科医が運営の中心ではないが、摂食嚥下障害の患者にとって1つの窓口で診断から治療まで完結できるよい流れにあると考える。守備範囲を摂食嚥下障害の診療に限定せず、外科系入院患者の周術期合併症低減をめざす口腔管理チームや、入院患者の栄養管理サポートチームの業務も管掌する組織が展開されている施設もあり、摂食嚥下障害については患者中心の医療が展開されてきていると考える。
唐帆健浩(じんだい耳鼻咽喉科院長)[耳鼻咽喉科][摂食嚥下障害]
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