株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

安藤明美

登録日:
2025-01-17
最終更新日:
2025-09-03
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  • 「医師が患者さんの仕事に関心を持つ意義」

    最近、総合診療医を取り上げたテレビドラマが話題になっています。総合診療に関わる医療者の間で関心度が高くなっており、会議中であっても「そろそろドラマが始まる時間なので、会議もこの辺で……」ということもあるくらいです。医療ドラマの中で、これほど話題になる作品は久しいと感じています。

    総合診療医は、診断のための病歴聴取以外に、医師と患者の関係を深めるために、医療面接において様々な工夫をしています。たとえば、会話のスピードやリズムを患者に合わせたり、家族構成や家族との関係性、どのような環境で生まれ育ち、これまでの職歴はどうであったか、どのような趣味嗜好を持っているか、時には飼っているペットとその名前まで聞くこともあります。

    目の前の患者が、どのような人生を歩んできたのかを知るということは、患者が持つ価値観を知ることにつながります。こうした患者との会話は、注視していないとただ世間話をしているようにみられがちで、患者の希望にできる限り寄り添った治療を一緒に選択することにつながるための工夫をしているということに気づいてもらえないことも少なくありません。実際、ドラマに登場する総合診療医のように、他科の先生から「患者と、医療とは関係のない世間話をしているうさん臭い医者」だと思われがちです。しかし、ベテランの医療職や総合診療医は、患者の望む治療を実現するために、そうした時間がどれほど大切な意味を持っているのかを知っています。

    昨今、「治療と仕事の両立支援」が当たり前の社会となることをめざして、厚生労働省を中心に様々な取り組みがなされています。2018年度診療報酬改定において創設された「療養・就労両立支援指導料(今のところ対象疾患は限られていますが)」は、医療機関が患者と事業場の間の連携を支援し、就労と治療の両立に必要な情報提供を行うことで、人員や書類作成にかかる負担への対価として診療報酬を得ることができます。一方、「療養・就労両立支援指導料」が存在することは、あまり広く知られているとは言えません。

    総合診療医のみならず、かかりつけ医の先生方には、ぜひ患者の職歴や現在の職業にも関心を持って頂き、患者が望む治療を受けるためには職場からどのようなサポートを得ることができるか、本人あるいは企業(本人の同意を得た後に)と対話して頂ければと思います。患者の中には、突然、重い病を診断されたことで混乱し、すぐに退職することを選択してしまう方もいます。診断がついた後も患者の人生に伴走する医療職として、事業場で利用することができる制度を知ってもらい、治療状況や体調によっては無理をさせず、「まずは休業することも考えましょう」と伝えることも大切です。

    働く世代が最初に健康問題を相談する窓口となりうる、かかりつけ医療機関において、治療と仕事の両立支援を提供することができるようになることを願っております。

    安藤明美(安藤労働衛生コンサルタント事務所、東京大学医学系研究科医学教育国際研究センター医学教育国際協力学)[総合診療医][家庭医][プライマリ・ケア医]

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