株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

八谷 寛

登録日:
2025-02-21
最終更新日:
2025-07-15
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  • 「地域の保健事業の課題」

    地域における有識者の一人として、某県の国民健康保険団体連合会(国保連合会)の保健事業支援・評価委員会の委員を数年前より務めている。この委員会は、保険者(主として自治体)による、国保加入者(住民)に対する保健事業が、効果的・効率的に実施されるよう支援するためのものである。

    なお、保健事業とは、地域の健康課題の解決をめざした取り組みであり、高血圧や糖尿病の重症化予防、特定健診受診率の向上、特定保健指導の実施率の改善などが典型的なものである。こうした保健事業を、データ(特定健康診査・特定保健指導の結果、レセプトデータ等)を活用して計画したり、改善する考え方をデータヘルスと言い、データヘルスに基づく保健事業実施計画(データヘルス計画)の策定も保険者に義務づけられている。

    支援・評価委員会の委員として、多くの自治体の保健事業の内容や課題を詳しく知る機会に恵まれたので、その過程で感じたことを2つ紹介したい。

    はじめに、多くの事業が民間業者への委託によって実施されている事実に驚いた。それ自体は必ずしも悪いことではないが、注意すべき点もあると感じられた。たとえば、特定健診受診率向上の保健事業であれば、住民の性別や年齢、過去の受診歴等の情報を用いて「人工知能」的にセグメント化し、行動経済学的な知見を活かした案内を行うといったものである。受診率の効率的な向上にはつながるかもしれないが、本当に受診が必要な人への働きかけになっているのか検証が必要である。

    このような事業においては、短期的に達成されやすい目標値が追求される傾向に陥りやすいといった問題がある。これはデータヘルスの本質的な課題かもしれないが、真に住民の健康状態の改善につながる保健事業を提案しているのか、委託者・受託者双方の質的向上も必要と感じられた。

    次に、特定健診結果に基づき、医療機関受診を勧奨する重症化予防事業(糖尿病、高血圧などの受診勧奨)についてである。たとえば,未治療の糖尿病(HbA1c値≧6.5%等)のあった者について、医療機関を受診するよう勧奨する事業が該当する。このような場合であっても、医療機関側(医師)の対応にはばらつきがあり、受診にこぎつけても、意図した重症化予防につながらないと悩む自治体の多さに驚いた。このような事業はエビデンスに基づき計画されており、また、医師会への事前の情報提供などを経て実施されることが多い。にもかかわらず、医師が適切な予防医療や教育を提供しないまま、患者(住民)が放置される状況は問題である。

    さらに、地域において医療機関や保健部門が連携して、重症化予防(腎不全や心血管疾患等の発症予防)の取り組みを行うための仕組みづくりが求められているが、核となる医師不足に自治体は悩んでいる。関係機関間の顔の見える関係の構築とともに、地域の健康状態の継続的な改善に貢献できる医師の育成や啓発が急務である。

    八谷 寛(名古屋大学大学院医学系研究科国際保健医療学・公衆衛生学分野教授)[保健事業][国民健康保険

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