2025年6月5日、台北市で開催された「TAIWAN-JAPAN HOME HEALTHCARE BUSINESS FORUM(臺日在宅醫療商機研討會)」において、テクノロジーを活用したやまと在宅診療所の診療アシスタントモデルを紹介する機会を得た。本フォーラムは、日台の在宅医療分野における連携と、ビジネス創出を目的とした国際会合であり、台湾では2025年の超高齢社会入りを見据えて、政府主導で在宅医療体制の整備が急速に進んでいる。特に「Hospital at Home」制度では、IoTやAIを活用し、自宅で急性期医療を提供する仕組みが導入されており、日本とは異なる独自のアプローチがみられる。
この動きは、中正紀念堂の蒋介石像に刻まれた3つの理念─「学科」「主民」「理論」にも通じる。「学科」は科学技術の発展を、「主民」は民意の尊重を、「理論」は思想的基盤の構築を意味し、台湾の在宅医療にもこの哲学が息づいている。最新技術を生かす姿勢は「学科」、患者や家族の声を反映する姿勢は「主民」、倫理と実務に即した制度設計は「理論」と言える。「Hospital at Home」は、これらを調和させた仕組みであり、単なる技術導入にとどまらない点が印象的だった。
一方、私たちの診療所がある宮城県登米市では、病院の建て替えをめぐる議論が続いている。これは今後様々な地方で起こる事例のひとつであり、単なるインフラ更新にとどまらず、地域医療の方向性を見直す機会でもある。登米市の事例は台湾と対比して示唆に富み、政府主導で在宅医療インフラを整備する台湾に対し、日本では既存資源の再配置と住民合意が鍵となる。
今後4年間、台湾では医療資源の限られる地域への対応、高度な在宅医療導入、ICT統合が重点とされ、日本企業との協力も期待される。だが、重要なのは、単なる技術移転ではなく、地域の文化や特性に即した医療の構築である。登米市のような地域でも、地域に最適化された医療システムを構築するためには、「学科」に基づいてデータや科学的知見を活用し、「主民」の観点から現場の声を丁寧に汲み取り、「理論」にしたがってこれまでのエビデンスや実践知を組み込んでいくことが重要である。そこには行政だけでなく、実際に現場に立つトレーニングされた医師の積極的な関与も欠かせないだろう。
田上佑輔(医療法人社団やまと理事長、やまと在宅診療所院長)[在宅医療体制][地域医療]
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