「医師の仕事と弁護士の仕事、どっちが大変ですか?」
私はよくこの質問を受けますが、「大変」の意味合いも様々ですので、しばしば回答に窮します。この場合「どちらが大変か」はひとまずおいて、医師から弁護士に転身したときの雑感をお話することにしています。
まずお伝えするのは、やり合う相手の違いです。
医師の場合は、「病気」とやり合います。敵は病気ですので、敵の敵は味方と言いますか、自分を含めた医師(医療者)はみな味方となります。さながら、同じ船に乗る乗組員といったところでしょうか。学会や勉強会で相互に研鑽し、いろいろな所属先(病院)を渡り歩いてキャリアを積んでいきます。それぞれがそれぞれの持ち場で、医療提供者という社会的な使命・役割を果たそうとしているように見えます。
一方、弁護士の場合は、通常は「紛争の相手方」とやり合います。相手方にも弁護士がつきますから、必然的に同業者とは対立当事者として相対します。そうすると、仲間だとか味方だとかいう感覚は希薄になります。弁護士として修得する経験・能力・専門性などは、門外不出とまでは言いませんが、とはいえ、やすやすと同業者に共有するものではなく、各々がこの業界で生き抜く武器を身につけています。その意味で、どこか野武士的というか、職人の世界という印象を受けます。
もちろん、どちらがよいとか悪いというものではなく、それぞれの職務の内容やプロフェッション形成の歴史などの違いによるものなのでしょう。
私も弁護士に転身した当初は、このあたりの違いに戸惑いました。しかし、プラクティスの本質的なところは共通していました。
つまり、「依頼者(=患者)から困りごと(=主訴)を丁寧にお聞きして、法的な(=医学的な)見地から解釈・分析をし、そのための必要な調査(=身体検査・諸検査)を実施して、請求・訴訟等(=治療)を行う」という一連が同じだったのです。何回か事件の担当をするうちに、臨床をしているときと同じ動き方をしていることに気づきました。
考えてみると、医師と弁護士の仕事は、根本のところが似ています。
専門家でしか解決できないような重大な困りごとを抱えた方からその問題の解決を任され、専門性を発揮してその負託にこたえる。ここが共通しているから、自然とプラクティスが似てくるのかもしれません。
浅川敬太(梅田総合法律事務所弁護士、医師)[弁護士][医師][プラクティス]
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