株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

渡部欣忍

登録日:
2025-01-14
最終更新日:
2025-03-28
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  • 「ポリファーマシーの解消は難しい」

    「この薬は何のために飲んでいるのですか?」と尋ねると、首をかしげる高齢者は少なくありません。お薬手帳には10種類以上の薬剤名が記載されています。

    複数の薬を服用していることにより有害事象が生じた、あるいはその危険性がある状態を「ポリファーマシー」と呼びます。ポリファーマシーの問題点として、薬剤相互作用や副作用リスクの増大、服薬アドヒアランスの低下、医療費の増加、さらには患者のQOL低下などが指摘されています。6剤以上が処方されると、薬剤有害事象が増えると考えられています。

    整形外科で手術を受ける高齢者の多くは、高血圧症や脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病に対する薬剤を複数服用しています。また、術前休薬が必要な薬も多いので、服薬状況をチェックして手術にのぞむのですが、処方薬剤数の多さに愕然とします。

    かくいう整形外科医である私自身もまた、骨粗鬆症の治療や疼痛コントロールのためにポリファーマシーに容易に加担してしまいます。骨粗鬆症の治療では、ビスホスフォネート製剤に活性型ビタミンDやカルシウム剤を併用することで治療効果が高まる反面、処方薬剤数が増えてしまいます。侵害受容性疼痛にはNSAIDsやアセトアミノフェン、強い疼痛に対しては弱オピオイドの併用、神経障害性疼痛にはプレガバリンやミロガバリンを用いるケースがあります。さらに、副作用を軽減するために胃粘膜保護剤や制吐剤を追加することが多く、結果としてポリファーマシーの状態になります。レニン・アンジオテンシン系阻害薬、利尿薬、NSAIDs併用でのtriple whammyによる急性腎障害で、最後にとどめをさしてしまう整形外科医も少なくないと聞きます。

    ポリファーマシーの解消は一筋縄ではいきません。各科の医師が「患者にとって必要」と考えた結果として投薬しているからです。医療費や副作用リスクを抑えつつ、併存疾患の進行を予防し、QOLを向上させるためには、各患者について予想されるアウトカムを改善するための診療科横断的な最適治療を決めるアルゴリズムが必要になります。アウトカムとしては、死亡リスクが1番に挙げられますが、運動器に関わっている整形外科医としては、「立つ」「歩く」「作業する」といった、身体機能も同じくらい重要であると強く思います。

    近い将来、汎用人工知能の発展により、複数の疾患リスクや死亡率を包括的に評価し、診療科の枠を超えた最適な治療方針を提示できるシステムが登場するかもしれません。ポリファーマシーによるリスクの軽減はもちろん、患者の運動機能やQOLに配慮した処方設計にも役立つ可能性があります。医療の複雑化が進む現在だからこそ、AIをはじめとした新技術の活用に期待すると同時に、医療者同士の連携をより深め、患者にとって本当に必要な薬剤を選択する視点がますます求められていると感じます。

    渡部欣忍(帝京大学医学部整形外科学講座教授、帝京大学医学部附属病院外傷センター長)[整形外科医][ポリファーマシー

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