「命にかかわる─新聞がなんと言おうと、女性医師の手術はいやだ」
かつて、こんな刺激的なタイトルで特集を組んだ週刊誌があった。その記事では、有名漫画家の言葉を引用し、国民に対して不安を煽る。
「手術を受ける患者の立場になれば、女性医師よりも男性医師のほうが安心だという感情は、誰にでもあると思います」。
その根拠として挙げられたのは、女性医師には生理や妊娠といった身体的特徴があり、それが影響するというものだった。強い違和感を覚えた。同じように感じた人もいたのではないだろうか。評価の公平性をいかにして確保するかは難しい課題であるが、もし属性や偏見によって歪められているとしたら、それは是正する必要がある。
筆者らは、日本で実施された手術の95%が登録されているNational Clinical Database(NCD)のデータを用いて、2022年にJAMA SurgeryとBMJにそれぞれ1本ずつ、ジェンダーに関する論文を発表した。
1つ目の研究では、消化器外科手術のうち代表的な6術式(胆囊摘出術・虫垂切除術・幽門側胃切除術・結腸右半切除術・低位前方切除術・膵頭十二指腸切除術)における外科医1人当たりの執刀数を男女間で比較した。その結果、すべての術式で女性医師の執刀数は男性医師より少なく、格差は手術難易度が高いほど顕著であった。さらに、経験年数の増加とともにこの差は拡大する傾向にあった1)。
2つ目の研究では、幽門側胃切除術・胃全摘術・低位前方切除術の手術関連死亡率、Clavien-Dindo分類におけるGradeⅢ以上の合併症発生率、膵液漏・縫合不全の発生率を男女の外科医間で比較した。その結果、男女間で統計学的な有意差がないことが明らかになった。加えて、興味深いことに、女性医師は基礎疾患を有するリスクの高い患者を多く担当していた2)。
これら2つの研究結果が示すのは、女性医師は執刀機会が少なく、リスクの高い患者を担当する傾向があるにもかかわらず、手術成績は男性医師と同等であるという事実である。手術成績については、他国からも報告されているが、知りうる限り女性医師が男性医師より劣るとする報告はなく、女性医師のほうが優れているとするデータさえある。
女性医師による手術に対する不安や不信感は、客観的なデータではなく、先入観や思い込みに大きく左右されているのではないだろうか。ジェンダー研究の結果が、こうした偏見を払拭し、患者の不安を和らげる一助となることを願う。
【文献】
1) Kono E, et al:JAMA Surg. 2022;157(9):e222938.
2) Okoshi K, et al:BMJ. 2022;378:e070568.
河野恵美子(大阪医科薬科大学一般・消化器外科)[外科医][女性医師]
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