株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

河野恵美子

登録日:
2025-01-07
最終更新日:
2025-08-26
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  • 「『外科医ゼロ』警鐘から約20年─ようやく政策の土俵に上がった外科医不足対策」

    2007年に開催された「第107回 日本外科学会定期学術集会」において、当時会長の門田守人教授は、「2018年には外科学会への新規入会者がゼロになる」という衝撃的な試算を公表した。外科はかつて “花形分野”とされていたが、1980年代後半から外科医の減少が続き、このままの傾向が続くと、外科は新たな担い手を失いかねないという指摘であった。外科医減少の行き着く先を突きつけたこの講演は、学会史に残る警鐘として記憶されている。

    幸い、2018年に外科学会への新規入会者がゼロとなる事態は回避されたが、外科を取り巻く環境は依然として厳しい。厚生労働省の「2020年 医師・歯科医師・薬剤師統計」より、2008年を1.0とした場合の診療科別医師数の推移は、リハビリテーション科・麻酔科・形成外科・放射線科は1.3〜1.6と大幅に増加している。しかし、外科は横ばいで、全診療科中最も低い水準にとどまっている。総数が約1.2という現状をふまえれば、現状維持は実質的な減少である。

    中でも消化器外科は、担い手の確保がより深刻である。日本消化器外科学会はこうした状況に危機感を強め、2025年2月に「国民の皆様へ 地域における消化器外科の診療体制維持のために必要な待遇改善(インセンティブの導入など)について」と題したメッセージを公表し、待遇改善への理解と後押しを国民に直接呼びかけた。また、2024年7月には「消化器外科の明るい未来を達成するためのロードマップ」を発表し、医師確保に向けた制度改革の必要性とキャリア支援・育成環境の大幅な見直しを訴えた。

    国がようやく重い腰を上げたのは、門田教授が警鐘を鳴らしてから15年以上が経ってからである。2024年6月に閣議決定した「骨太方針2024」では、医師の地域・診療科偏在を主要課題に位置づけ、年末までに総合的な対策パッケージを策定すると明記された。これを受けて、厚生労働省は2024年10月、「第7回 医師養成課程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」に消化器外科学会理事長らを参考人として招聘し、医師養成や地域偏在対策に関わる官僚や有識者に、外科医療の現場が直面している実情を伝える機会が設けられた。同年12月、厚生労働省から「新たな地域医療構想等に関する検討会」のとりまとめが公表され、総合的対策パッケージに「外科医師が比較的長時間の労働に従事している等の業務負担への配慮・支援等の観点での手厚い評価について、医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会等における議論を踏まえつつ、別途、必要な議論を行うことが適当である」との方針が盛り込まれた。

    産婦人科医や小児科医は、これまでも政策論議の俎上に載ってきたが、外科医不足の対策が正式に政策の対象として位置づけられたのはこれが初めてである。今後、改善のための対策が制度の中で本格的に検討・実施されていくことになる。

    外科医不足は、いまや現場の献身や工夫だけでは打開できない構造的な課題である。政策の土俵に上がった今、すべてのステークホルダーが一丸となって、これを確かな制度へと育て、10年先、20年先も国民が安心して外科診療を受けることができる体制へと、結実させていくことを切に願う。

    河野恵美子(大阪医科薬科大学一般・消化器外科)[外科医外科医不足

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