2025年4月から「急性呼吸器感染症(acute respiratory infection:ARI)」が5類感染症定点把握疾患となる。「これは風邪のサーベイランス?」という質問に対して、「日常的に流行していた風邪を、季節性インフルエンザなどと同様に感染症法上の5類感染症に位置づけ、流行状況を監視する方針である」といった報道への説明(あるいは報道側の解釈)が伝えられ、「風邪を届けて何になる」「負担ばかりかかるのではないか」というような声が筆者にも届いている。
風邪と言えば、くしゃみ・鼻水・微熱など軽い病気を表す言葉となっていて、「風邪とインフルエンザは違います」といった説明をすることが多かった。診療でも「風邪ですね」「ああ風邪ですか」と、患者さんもなんとなく納得してしまうような使いやすい病名である。
一方、「風邪は万病のもと」と、風邪を軽く考えてはいけないという注意がなされるが、「万病のもと」というより「多くの感染症は風邪様の症状から始まるので、症状の変化には注意を」との考え方が正しいのではないだろうか。
ARIは、文字通り急性の呼吸器系感染症であり、アレルギー性疾患や慢性疾患の可能性が臨床的に考えられれば除外される。既に届け出対象疾患であることが診断される場合(咽頭結膜熱・RSウイルス感染症など)には、そちらへの届け出となる。ARIは症状から判断される「症候群サーベイランス」であり、病原体の検知とそれに連動させた動きをみることが重要である。
もし、このサーベイランスがうまく動けば、診療側にとってはARIが流行的になっているかどうか、その病原体は何か、がわかりやすくなり、治療方針や経過観察に役立てることができる。行政的には、流行性疾患の把握に対し、より科学的・医学的に対応できるように、危機管理的には、新たに発生あるいは海外から侵入してくる呼吸器感染症などの把握にきわめて有用となる。
これまでの国内のサーベイランスでは「原因不明の疾患を届ける」という概念は乏しく、症候群として届けているのは「急性脳炎」「感染性胃腸炎」などである。武漢市で発生した原因不明の肺炎(新型コロナウイルス感染症と判明)のような疾患の早期把握、ヒトメタニューモウイルスの検知などは、これまでの日本のサーベイランスシステムでの把握は困難であり、改善にはARIサーベイランスが重要である。加えて重症呼吸器感染症の把握が不可欠だが、別システムでの導入が検討されていると聞いている。
これらのデータが、臨床現場、行政対応により有用なものにするためには、実施しようとする国がその意義を正しく説明し、定点把握・病原体検査等にかかる経費をきちんと計上することが必要である。そして、サーベイランスの肝である結果のフィードバック、わかりやすい公表が何よりも求められる。また、実施しながら適時方法を柔軟に見直すなどして、感染症の理解・把握に重要なものとして育っていくことを願っている。
岡部信彦(川崎市立多摩病院小児科)[感染症][類感染症][定点把握疾患]
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