株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

藤田哲朗

登録日:
2025-01-15
最終更新日:
2025-04-18
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  • 「がけっぷちの病院経営:診療報酬の限界と対策」

    病院経営がかつてないほど厳しい状況に直面しているのは、医療業界で働く方には周知のことと思います。資源価格の高騰や急激な円安に端を発した物価上昇は、医薬品、医療材料、光熱費など、病院運営に関わるあらゆるコストを押し上げています。全日本病院協会ら6団体が行った「2024年度診療報酬改定後の病院経営状況」では、61%の病院が赤字という結果でした。

    2025年度は次年度の診療報酬改定に向けた議論が行われる年ですが、この逼迫した経営状況が直ちに次の改定でプラスに転じるかというと、残念ながらポジティブな期待は持てないとみています。昨今の「社会保険料が高すぎる」という国民の声は根強く、いかに病院の経営が厳しいといっても大幅なプラス改定は難しいと予想します。また、医薬品の供給状況を見ても、薬価改定で診療報酬本体の財源を生みだすスキームは限界を迎えており、保険財政の枠内(やりくり)での改善も難しいように思います。

    今の日本の医療を取り巻く厳しい環境、いわば「冬の時代」はしばらく続くと覚悟せざるをえないでしょう。誰もがその名を知るような基幹病院が経営破綻するといった、社会全体に大きな衝撃と不安を与える事態にでもならない限り、保険診療を取り巻く環境が抜本的に改善するという政治的な動きにはつながりにくいのではないでしょうか。

    政治の流れが「社会保険料は上げない、むしろ下げる」という方向にある中で、質の高い医療提供体制を維持していくためには、診療報酬の枠外での対策が必要です。たとえば以下のような方向性が考えられます。

    第一に、保険診療とは別枠で、国・都道府県が戦略的に急性期医療に対して補助金を重点的に投入すること。これまでも新型コロナウイルス感染症や物価高騰で臨時的な運営支援の補助金は投入されてきており、これを恒常的な制度に位置づける。

    第二に、航空機の「燃油サーチャージ」のように物価高騰分を診療報酬の枠外で患者から費用を徴収できる仕組みを導入すること。介護保険施設では、食費や居住費を事業者側が自由に設定でき、低所得者は別枠の給付でカバーされるという仕組みになっています。同様の方法を採用できれば、医療機関は保険点数だけでは賄いきれないコストを直接の受益者から薄く広く回収することが可能になります。

    第三に、保険診療の給付対象を「医療機関でしか提供できないもの」に重点を置くように見直すこと。最近よく話題になっているOTC類似品の保険給付からの除外も同じ方向性と言えます。

    世間にはまだ注目されていませんが、病院経営はもはや「がけっぷち」にあります。これらはあくまで一案ですが、中医協での診療報酬の配分の駆け引きでは解決できない段階に至っているという認識を、社会全体で共有する時期にきているのではないでしょうか。

    藤田哲朗(医療法人社団藤聖会理事、富山西総合病院事務長)[病院経営][診療報酬社会保険料][がけっぷち

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