株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

藤田哲朗

登録日:
2025-01-15
最終更新日:
2025-07-23
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  • 「加算の先にあるもの─『診療体制の強化』を見据えた人材戦略」

    本稿では、診療報酬における「加算」や「管理料」について考えたいと思います。コスト増が続く中で利益を残し、経営を安定化させていくためには、「売上」の確保が重要です。各種加算は、確かに病院の売上を構成する重要な要素で、売上が低迷しているとついつい飛びつきたくなってしまいます。しかし、その一つひとつを精査したとき、はたして本当に「利益」につながっているでしょうか。

    「医師事務作業補助体制加算」を例にしてみようと思います。200床の病院で20対1の医師事務作業補助者を雇用し、加算2を算定する場合を考えます。平均在院日数を14日、病床稼働率を85%と仮定すれば、逆算すると年間の入院患者数は約4400名。加算2(790点)を算定する場合は、年間約3476万円の増収となります。かなりの額なので、魅力的に思えますが、コスト面はどうでしょうか。

    20対1配置には、少なくとも10人の医師事務作業補助者の配置が必要です。仮に、1人当たりの人件費を法定福利費込みで年間300万〜400万円と試算すると、そのコストは3000万〜4000万円に上ります。仮に中間で3500万円とした場合、加算による直接的な収支はほぼ均衡することになります。単純に「目先の加算を取るためにとにかく人を雇おう」という発想はリスクが高いような気がしてきます。

    ただ、それでも私は「加算の算定には積極的にチャレンジすべきだ」と言いたい。なぜなら、こういったストラクチャーに関わる加算の真の価値は、目先の加算による増収効果にはないからです。それは、人員増強がもたらす「生産性の向上」「質の向上」です。

    前述の医師事務作業補助者の場合、配置の本質的な目的は、医師を「診療」そのものに集中させることにあります。診断書やサマリー作成といったノンコア業務から解放し、医師が本来の業務に専念できれば、診療の質は向上し、結果として病院全体の生産性が高まり、売上増にもつながります。

    これは他の加算でも同様で、たとえば「看護職員夜間配置加算」も、増員分の人件費を考えれば加算そのものでの収益はあまり期待できません。しかし、手厚い人員配置によって夜勤者の負担が軽減されれば、現場の疲弊感の軽減や、より重症度の高い患者の受け入れ体制の強化ができます。ひいては、働きやすい職場環境が離職率の低下と採用競争力の向上につながり、安定的で質の高い看護体制という、病院にとってもっとも重要な経営資源を確保することにつながるかもしれません。

    加算の算定そのものを目的として人員を採用しても、病院の経営体質や収益構造は根本的には改善しません。「この加算が算定できるか」ではなく、「この人材の配置によって、自院の『診療体制』はいかに強化されるのか」を考えることが重要ではないではないでしょうか。診療報酬上の加算とは、我々がめざす「診療体制の強化」という戦略的投資のコスト増を、いわば下支えしてくれるものでしかありません。その本質を見誤ることなく人材戦略を描いていく必要があります。

    藤田哲朗(医療法人社団藤聖会理事、富山西総合病院事務長)[病院経営][診療体制診療報酬

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