2025年6月6日、自民党・公明党・維新の会の3党は、「2027年4月の新たな地域医療構想スタートまでに病院病床数を全国で11万床を削減する」方針を固めた。その内訳は、一般病床・療養病床で5.6万床、精神病床で5.3万床としている。
日本の病床は国際的に見ても過剰だ。2021年の先進各国の人口1000人当たりの総病床数を見ると、日本12.6床、米国2.8床、英国2.4床、フランス5.6床、ドイツ7.8床と、いずれの国より突出して多い。実は1960年代半ばには、人口当たりの一般病床数は各国とも10床前後で、あまり変わらなかった。精神病床では、日本は1.5床、各国は3〜4床と、日本は各国よりも病床数が少なかった。
それが1970年代のオイルショックによる世界経済の後退で、状況が一変する。先進各国は一般病床を絞り込み、1床当たりの職員数を増やし、平均在院日数を減らし、病床の構造改革を果敢に進めたのだ。
そのとき、日本は先進国トレンドとは真逆の道を進む。病床を増やし、1床当たりの職員数を減らし、平均在院日数を伸ばしたのだ。理由は1973年の老人医療費の無料化だ。これによって職員数が少なくても開設できる、特例許可老人病院の病床数が30万床も増えた。さらに、それに追い打ちをかけて、1985年の地域医療計画による「掛け込み増床」で20万床も増えた。あわせて50万床、これが一般病床過剰の元凶だ。
精神病床も同じだ。先進各国は1970年代に精神病床を絞りこみ、精神科患者の地域移行を進めた。イタリアでは、バザーリア法によって精神病床の削減に取り組む。ところが日本では、1964年に親日家の米国駐日大使ライシャワーが、統合失調症の青年に刺されて重症を負う。この事件をきっかけに、メデイアも「精神病患者を野放しにするな」とキャンペーンを張り、国も「精神科特例」という少ない医師、看護師数でも精神科病院を開設できるようにした。このため各国が精神病床を減らす中、日本だけが唯一、精神病床を増やし、いまでは35万床と、世界一となっている。同時に精神科病院の平均在院日数も200日超で、これも世界一だ。
どうしてこんなことになったのだろう。それは1970年代、世界がオイルショックで経済後退する中、日本は経済成長を誇り、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とおだてられ、自分たちこそが「世界標準だ」と思い込んだからだ。
1968年、WHOは英国ケンブリッジの精神医療改革で実績を上げたクラーク氏を日本に派遣した。クラーク氏は3カ月間にわたって日本の精神医療を調査し、脱施設化と患者の地域移行を勧告した。しかし、日本は聞く耳を持たなかった。なんと当時の厚生省の課長が記者会見で、「斜陽の国イギリスから学ぶものは何もない」と言い放つ始末だ。
おごれる日本の病床政策の失敗の後始末をしているのが、現在の地域医療構想と言える。
武藤正樹(社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ理事)[地域医療構想][病院病床数]
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