茨城県は2024年12月2日から、救急車要請時に緊急性が認められない場合、県下の200床を超える大病院において選定療養費を徴収する方針をとった。重篤な救急患者の受け入れなど、大病院が本来の役割を果たし、救急医療体制を維持することを目的としたものである。先日、3カ月実施したこの体制の検証結果を公開した。
大病院とそれ以外の病院での役割を分担するという意味においては、本来の選定療養費徴収の目的に適った制度であるが、「救急搬送件数を下げる」ことを目的としたならば、本来の選定療養費の目的からは逸れるため、行政による制度の悪用であるという指摘をこれまでしてきた。検証のまとめとしては、以下のようになる。
・県全体の救急搬送件数は対前年同期比0.5%の減(3万8229件→3万8041件)
・軽症の搬送数は9.2%の減(1万7803件→1万6162件)
・対象22病院への救急搬送件数は対前年同期比で1.6%の減(2万2559件→2万2188件)
・対象22病院への軽症等の救急搬送が占める割合も前年から5.3%の減(44.0%→38.7%)
・救急電話相談の相談件数は対前年同期比で6.9%の増(3万6016件→3万8493件)
軽症の搬送数が減った、電話相談件数が増えて交通整理ができたという報告であるが、やはり方向性がずれている気がしてならない。選定療養費を徴収する目的が、「適正な医療資源の配分」であるならば、主として報告すべきは搬送件数の減少ではなく、「患者が適切な場所で必要な医療を受けられたか」「重症患者の治療がよりスムーズに行われたか」という点であろう。まだ3カ月経過後の検証であり、今後もこの制度を継続し、改めて有効性を評価するのであれば、救急医としては次のような指標を望む。
茨城県において、そもそも重症患者の搬送遅延が起こる頻度や、防ぎえた死がどれくらいあったのかというデータをもとに、選定療養費の導入に伴い、どの程度搬送困難が解消され、死亡率に変化があったのかという点を検証せねば、本来の目的を評価し損なうことになる。大病院の機能を維持、改善することが目的なのであれば、ここから目を逸らしてはならない。
受診を諦めた割合や、受診が遅れた割合をきちんと追うべきである。なお、対象22病院への搬送と、それ以外への病院への搬送の割合はさほど変わっていない。大病院ではなく、中小病院へ搬送する流れをつくったとも言えないので、全体として救急要請を諦めさせたという結果につながっている。救急要請をしなかった患者のその後については、丁寧に追跡する必要があるだろう。
薬師寺泰匡(薬師寺慈恵病院院長)[救急医][選定療養費]
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