これまでの本連載(No.5261およびNo.5268)では、国際的に活用されている「クラスターアプローチ」に注目し、その必要性や日本における適用の可能性について述べてきました。本稿では、それを単なる理念にとどめず、行政や現場で機能させるためには、どのように制度化していくかを考えます。
国際的には、保健、食料、水・衛生、教育、避難所など、分野ごとに専門機関が調整役を担い、関係団体と連携を取る常設の仕組みがあります。日本でも、災害時に急ごしらえで対応するのではなく、平時から準備し、継続的に機能する体制づくりが必要です。
筆者自身、医療分野において「保健医療福祉調整本部」の運営に携わってきました。これは日本版ヘルスクラスターと呼べるもので、関係機関の役割を明確にし、訓練と関係構築を通じて災害時に円滑な連携を可能にする体制です。こうしたモデルを他分野にも応用するためには、単なる会議体の設置ではなく、実動に直結する協働の仕組みが不可欠です。
現在の行政支援は、人手不足の現場に職員を派遣する「マンパワー支援」にとどまっており、専門的な知見を活かした支援とは言い難いのが実情です。一方、医療分野ではDMATが平時から訓練を重ね、災害時には共通の手順と用語で即戦力として機能する体制を構築してきました。これは、専門性と機動力を兼ね備えたモデルとして非常に示唆に富みます。
同様に、行政やその他の分野でも、訓練を受けた専門職チームの存在が求められます。こうした人材が災害時に被災地の行政や支援組織を支えることで、支援の質とスピードは飛躍的に向上します。単なる人員補充ではなく、「支援者を支援する専門人材」の配置が重要なのです。
筆者が提案する「disaster governmental assistance team(DGAT)」は、その具体例です。これは行政支援に特化した専門チームを平時から育成・訓練し、災害時には現地に入り込んで調整支援を行う仕組みです。クラスターアプローチの調整役としても、十分にその力を発揮できると考えています。
クラスターアプローチの制度化は一朝一夕には実現しませんが、モデル自治体での実証や、分野別の連携体制の試行など、段階的に取り組むことは可能です。専門性と実行力を備えた多様な主体が、それぞれの役割を持って連携できる体制づくりこそが、これからの日本の災害対応を持続可能にしていく鍵だと考えています。
稲葉基高(ピースウィンズ・ジャパン空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”プロジェクトリーダー)[災害対応][クラスターアプローチ]
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