株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

田妻 進

登録日:
2025-01-14
最終更新日:
2025-07-25
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  • 「生命の起源とsuperintelligence〜共生へのポテンシャル」

    『病院が壊れる?』の見出しが人々に問題提起した『地域医療のSDGs』が、世界に冠たる日本の医療システムの転換へと舵を切らせる圧力になりつつあります。図らずもこのタイミングで登場した総合診療医、中でも病院の存続に深く関わるホスピタリストのあり様が注目される一方で、近代科学の革命的産物として誕生したAIが、人間社会を著しく変容させています。まったく異質に見えるこれらのpiecesをつなぎ合わせて、有益な化学反応を期待することはできないものでしょうか。

    AIの登場は、様々な分野に驚異的なパラダイムシフトを呼び起こしています。人類が生き残る究極の解として、「利他的行動」と「道徳心」の2つのkeywordsを挙げて、倫理観を喚起したかと思えば、deep learningを武器に医療分野で臨床診断・推論のステップを強烈に様変わりさせる勢いを示し、画像診断からスタートした実臨床への参入は瞬く間に臨床の根幹を変革させる現実を想定させています。1万5000種類の動植物のゲノムを学習した生成AI『Evo2』がsuperintelligenceとして登場し、新たな生命としての機能を有する遺伝子配列を生成できるレベルに達したことで、本来神秘的であった“生命の起源”さえ、科学(とりわけAI)の手中に収める、危険な水域に足をふみ入れていると感じるのは筆者だけではないでしょう。

    人間の英知を凌駕するかのようなsuperintelligenceは、どのようにして生まれ、育てられてきたのか? そして、どのように成長していくのか? 育て方を誤れば、私たちの存続さえも危うくなるのではないでしょうか。筆者が生まれ育った広島は、科学が生み出した殺戮の産物による悲劇を経験して、今なお傷痕の癒えない象徴として話題になります。その惨劇からの学びは、科学が人間社会の恒久的な繁栄をもたらすために地球規模で探求する倫理観、すなわち「利他的行動」と「道徳心」の重要性です。期せずしてAI自身が導きだした、この人類存続の解に基づいて、superintelligenceをさらに進化・深化させるdeep learningにおいては、偽情報を意図的に偏食させる(摂取を拒否する)自助システムを駆使して、超倫理的かつ戦略的に、人類と共生する同胞に育て上げることです。新しい生命体さえデザインできるレベルに達した科学の申し子superintelligenceには、確かな道徳心を植えつけて共存共栄をめざしたいものです。

    黎明期のAIに「総合診療医とは?」と尋ねると回答に窮していましたが、今やChatGPTなどは即座に簡潔明瞭な回答をくれます。総合診療医とホスピタリストの異同についても、AI自らの答えを返してきます。早晩、診断プロセスや臨床推論はAIが主役となり、治療アルゴリズムも自動操縦よろしくAI制御が主体となる時代が到来するかもしれません。総合診療医、ホスピタリストに限らず、臨床現場が新しいスタイルに変容していく中で、受療者に寄り添い、その一人ひとりの背景に白紙の心で向き合う“惻隠の心”こそ、AIとの共生を可能ならしめる私たちのポテンシャルと信じます。

    田妻 進(日本病院総合診療医学会理事長、JR広島病院理事長・名誉院長、県立二葉の里病院顧問)[地域医療構想][AI

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