パリオリンピックで新競技として加わったブレイキンは、日本人選手が女子で金メダルを獲得し、男子でも素晴らしいパフォーマンスと健闘が讃えられ、日本国内で一躍知名度が高まったスポーツと言える。
選手はDJが流す音楽に合わせて即興でダンスを披露する。その場で流れてくる音楽のリズムや音色、雰囲気に合わせ、高度なパフォーマンスやアクロバティックな技を調和させて盛り込むという、アートでもありスポーツでもあるという競技だ。このブレイキンは、実はリハビリテーション科医としてとても興味深いスポーツであり、人の動きのアートだと感じている。
障害者がスポーツをすると聞くと、パラリンピックを思い浮かべる人が多いだろう。では将来的にブレイキンがパラリンピックでも採用される可能性はないのか? と考えるが、おそらくその可能性は限りなく低いのではないか。なぜならブレイキンの特徴は、何と言っても表現について目立った規制や決まった価値観がないことと、音楽性やオリジナリティ、そして多様性がその採点基準として重視されるからである。
パラスポーツも含め、オリンピックであれパラリンピックであれ、スポーツ競技として、各選手が公平に競うことができるようにするためにルールが工夫され、個人に合わせた機材が使われる。手足がないとか、筋肉の緊張が高い・低い、あるいは動きが独特、という特徴は、通常の競技としてのスポーツでは不利に働きがちなために、パラスポーツとしてクラスをわけて実施したり、あるいは障害者自身が不利と考え、その競技を避けるということが生じる。
しかし、ブレイキンでは障害による特徴が、その人の特徴であり独創性という点でオリジナリティのある技を繰り出すのに有利に働く可能性がある。これにより、むしろ「誰にも真似できない!」「カッコイイ!」と思われる可能性があるのだ。
今回のオリンピックに先立って、障害のある子どもたちを対象としてブレイキンなどのダンス教室を5月に大学主催で開催した。その際に指導に来てくれたダンサーは、自身の障害を武器に、ダンスをアートとして高めて踊ってみせ、その姿は圧巻であり、誰にも真似できないオリジナリティと強烈な世界観を見せつけてくれた。そして、始めこそ戸惑っていた子どもたちが、音楽に合わせて身体を動かし、障害があってもその動きをアピールする形で、最後には個々にオリジナルのダンスを披露していた。障害のためにうまく動けないから……とスポーツが嫌いになる子どもたちが多い中で、障害があってもそれゆえの身体の動きがむしろ賞賛される世界であれば、障害のある子どもたちも身体を動かすことが好きになるに違いない……と感じた瞬間であった。
皆が同じ動きをするダンスではなく自由な個性を尊重し、それこそが価値があるものとするブレイキンは、障害がある誰もが障害がない人たちと普通に交わる世界を実現させる可能性を持っている。
藤原清香(東京大学医学部附属病院リハビリテーション科准教授)[障害者スポーツ][パラスポーツ][ダンス][個性]
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