認知症とともに生きる中で、特別養護老人ホームなどの施設への入居に強い不安を感じる方は少なくない。私が最初に行うことは、声に耳を傾け、その人に合う環境づくりと関係性を調整することである。それで安心される方もいる。また、自然に触れる時間を増やすと落ち着かれる方も。合わせて次の12項目を確認している。
1.内服薬……認知症を持つ高齢者用のガイドラインがある。薬の厳選で体調がよくなって落ちつく方は少なくない。
2.五感の過敏さを探す……聴覚過敏などの感覚の過敏さを持つ人たちがいる。音の場合は、部屋やベッドの位置を変えるなど。匂い、まぶしさ、皮膚感覚なども確認する。
3.便秘の確認……気分の変動に関連する。
4.痛みの有無の確認……姿勢、椅子や机の高さや硬さ、座っている時間などは影響がある。尿閉ということも。
5.びっくりさせない……視界に入ってから声をかける。笑顔で接しているか、生活のペースはどうか、毎回説明しているか。たとえば「ユマニチュード」はアイデアの宝庫である。
6.トラウマ反応の可能性の確認……特定の人や背格好、状況などで戦時中や過去苦しい体験がフラッシュバックを起こす可能性がある。反応が起こりにくい環境調整が助けになる。
7.本人は幸せそうかを……様々な精神症状(独語や幻視など)や反応が起こり、スタッフはその様子に心配しているときがある。このとき、症状を治療しようとせず幸せそうかどうかに重きを置く。
8.ご家族の願いを聞く……ケアするスタッフの方向性が統一できる。
9.その人の尊厳を存在させる……ヒストリーを集める。どう生きてきたかを知ると、ケア側がどうしたらよいかが見えてくる。
10.環境調整がどうにもできないときの処方……処方に関しては人それぞれという面がある。新たな処方の場合は最少量で場面限定的、副作用も確認する。
以下は例(参考程度)
①リバスチグミン4.5mg:元気がない、落ち込んでいる、食事が落ちているときに食事が取れるようになることがある。増量することはあまりない。
②ガンマオリザノール25mg:動揺しやすい時間帯がある。その時間前の内服で動揺が減る。朝落ち込むという方は朝に。夕方落ち着かないという方は15時に。
③レンボレキサント2.5mg:眠剤。日中のトラウマ反応や感覚過敏が強い場合に日中の感覚の過敏さも減ることがある。
④リスペリドン0.25〜0.5mgの頓服か定時:過敏さなどで大声をあげたり拒絶があるとき本人の強いストレスになることがある。朝からつらい気持ちの人は朝早くに。入浴など特定のときは入浴30分前に。夕方不安定になる方は15時に。
11.本当に器質因がないか……てんかん発作や自律神経の調整が難しくなっていないか。低血糖や血圧が低くないか。
12.もともと精神科受診がある……長く向精神薬を内服されてきた方の場合は、ご本人が安心して過ごせているか身体は安全かを第一に考え、薬調整は最後にしている。
森川すいめい(NPO法人TENOHASI理事)[認知症][特別養護老人ホーム]
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