最近、病院に入ると聞こえてくるのが深刻な看護師不足である。以前は交通不便な地方の病院で看護師不足が深刻であったが、最近は都市部の高度急性期病院においても不足が顕在化している。新型コロナへの対応をしたことによる疲弊や、他の業種の給料アップによる看護職への魅力低下などが大きな要因と思われる。
筆者はさらなる要因として、出生数の減少による18歳人口の減少があると考える。1992年に205万人いた18歳の人口は、2009年には4割も減少し121万人に。2009〜17年までは120万人前後を維持していたが、2024年には106万人程度まで減少している。その後も出生数は減少の一途をたどり、2041年の18歳の人口は72万人程度となる。2024〜41年までで、約34万人程度減少することになる。
若年人口の大幅減少により、これまでのような医療提供体制を維持することは困難になると思われる。医療人材の配分を考えても。2023年の出生数約72万人に対し、2023年の医学部定員は9384人、2021年の薬学部定員は1万3205人、2022年の看護師養成所総定員は25万8068人である。このほか臨床検査技師や放射線技師などの医療技術職や介護専門職の人材確保を考えれば、人材はまったく足りない状況となる。当然、日本の社会を維持するためには、農林漁業、建設業、運輸業、商業、小売業、サービス業、教育・公務分野などの人材配分が必要となる。医療・介護分野に配分できる人材数には限りがある。
これから確実に到来すると思われる深刻な看護師不足時代にどのように対応すべきか。一部にある「看護師を使い捨てにして当然」「看護師は使用人」という考え方は限界を迎えている。看護師のライフデザインを考え、働きがいのある職場とすることが必要となる。給与や研修体制を充実させる。食堂や休憩室、仮眠室などの労働環境の改善。安価で居住できる職員住宅の確保。院内保育の充実。就学資金貸与制度の充実。さらにはコロナ対応で減少した、職場コミュニケーションの改善。看護体制の見直しや看護補助者の雇用増(常勤の介護福祉士の雇用も検討すべきである)、最新の労働負担軽減ツールの導入などによる労働負担の軽減など、これからいっそう深刻化する看護師不足問題に前倒しで取り組む必要がある。看護師が勤務したいと思うような病院・地域となることが必要な時代となってきている。
伊関友伸(城西大学経営学部マネジメント総合学科教授)[医療人材不足][医療提供体制]
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